欠勤を繰り返す精神疾患者への企業対応
- office138
- 2021年1月6日
- 読了時間: 5分

Q:精神疾患が原因の労使トラブルを防ぐには?
当社は、IT業です。過去に休職や遅刻を繰り返す従業員を解雇しようとしたところ、うつ病の診断が出てトラブルになってしまいました。今後どのような予防対策が効果的でしょうか?
A:精神疾患(メンタルヘルス)に対応できる就業規則を準備し体制を整えましょう。
就業規則に「休職規程」を設けましょう。精神疾患(以下メンタルヘルスという)の解雇に伴う訴訟リスクを低減することができます。
休職規程は、労働基準法においての義務(絶対的記載事項)ではありません。しかし、休業規定が無いと、うつ病等のメンタルヘルス不調によって何度も休職と復職を繰り返す従業員に対して適切に対応ができません。

企業防衛に必要な3つの要素を盛り込みましょう。
メンタルヘルス特有の再発を繰り返すことに会社側が対応できるようにしておく。
休職期間中の賃金や社会保険料の負担などの取り決めを明確化しておく。
会社からも医師の意見を確認できるようにしておく。
それでは、具体的に見ていきましょう。
1. メンタルヘルス特有の再発を繰り返すことに会社側が対応できるようにしておく。
古い規定だと、通常の骨折等の欠勤には対応できますが、メンタルヘルス特有の断続的な欠勤や不完全労働には対応ができません。
下記の対応規定4つ(青色の個所①~④)の項目を設けることでメンタルヘルス特有の断続的な欠勤や不完全労働に対応できるようになります。

2. 休職期間中の賃金や社会保険料の負担などの取り決めを明確化しておく。
下記の4つの項目(赤色①~④)を設け、かつ事前に説明することで労使のトラブルを予防することができます。

3. 会社からも医師の意見を確認できるようにしておく。
下記の2つの項目を設ける。

それでは、休職規程例を見てみましょう。
(休職)
第1条 会社は次に該当するときは、休職事由を考慮のうえ上限3ヶ月間の休職を命ずることができる。その間の賃金は支給しないものとする。ただし、健康保険加入者・労働者災害補償保険法が対象となる場合は、その制度から補償を受けることができる。
(1)業務外の傷病(傷病理由を問わず)による欠勤が、年次有給休暇取得日を含めて1ヶ月以上にわたるとき。
(2)業務外の傷病による欠勤が、年次有給休暇取得日を含めて前3ヶ月間で通算して30日目に達したとき。

(3)業務外の傷病により完全な労務提供が困難であり、その回復に相当の時間を要するとき。
(4)前各号の他、特別の事情があって休職させることを必要と認めたとき。
(5)前第1号ないし第3号については、治癒する見込みがない場合には、休職を認めない。

(休職期間の通算)
第2条 第1条第1号(傷病欠勤が1ヶ月以上)ないし第3号(3ヶ月間通算で30日以上)により休職する場合、復職後12カ月以内に同一ないし類似の理由で再度休職する場合は、休職期間を通算する。
2. 同一ないし類似の理由による休職は1回に限る。

(復職)
第3条 休職期間満了前に、休職事由が消滅した場合で、会社が復職可能と認めた場合は復職させ勤務を命ずる。
2. 休職期間から復職(仕事に復帰)する条件は、従来の業務(下記条件)を健康時と同様に業務遂行できる程度に回復したこととする。
(ア) 始業・終業時刻を守って所定労働時間働けること。
(イ) 通勤時間帯に1人で安全に通勤ができること。
(ウ) 業務に必要な作業をこなすことができること。
(エ) 業務に必要な共同作業、コミュニケーションができること。
(オ) 月○時間程度の時間外労働ができること。

(復職の取消)
第3条 復職後12カ月以内に、同一ないし類似の理由により欠勤または完全な労務提供をできない状況に至ったときは、復職を取り消し直ちに休職させる。その場合の休職期間は、復職前の休職期間の残期間とする。
2. 前項の規定は、病気を理由とする普通解雇規程の適用を排除するものではない。

(休職期間中の取り扱い)
第4条 休職期間中の賃金は無給とする。

2. 休職期間は、会社が認めたとき以外は原則として勤続年数として通算しない。

3.社会保険料の本人負担分については、会社が指定する日までに、振り込むものとする。

(自然退職)
第5条 休職期間満了までに休職事由が消滅しない場合は、休職期間満了をもって自然退職とする。

(医師の診断書)
第6条 会社が求める定期経過報告および従業員が復職を申し出る場合は、医師の診断書を提出しなければならない。また、会社が診断書を発行した医師に対して面談を求めた場合、従業員は医療情報の提供に同意しなければならない。
※【免責事項】当該規程例は、特定の会社に対するものではありません。当該規程例を利用されたことによって生じた結果については、一切責任を負いかねますことをご理解ください。
規程の内容を少しだけ解説します。
第1条 会社は次に該当するときは、休職事由を考慮のうえ上限3ヶ月間の休職を命ずることができる。
汎用的なテンプレート規程(休職期間1~3年、休職期間一律)をそのまま真似て使っている企業をよくみかけます。
零細企業や中小企業においては、規模や体力を考慮して1ヶ月~6ヶ月で定めると良いでしょう。当該見本は、零細企業をモデルとして3ヶ月で定めています。
また、一律で3ヶ月の休職期間を与えるのではなく、各従業員の休職事由を考慮して会社が裁量権を確保できるよう「休職事由を考慮のうえ」という一文を加えています。
1.業務外の傷病(傷病理由を問わず)による欠勤が、年次有給休暇取得日を含めて1ヶ月以上にわたるとき。
2.業務外の傷病による欠勤が、年次有給休暇取得日を含めて前3ヶ月間で通算して30日目に達したとき。
3.業務外の傷病により完全な労務提供が困難であり、その回復に相当の時間を要するとき。
汎用的なテンプレート規程には、「欠勤が1ヶ月以上にわたるとき」が定められています。しかし、メンタルヘルス不調の特徴は、出勤と欠勤を繰り返すという点で「欠勤が1ヶ月以上にわたるとき」だけの規定では対応できません。
メンタルヘルス不調に対応するためには、「3ヶ月間で通算して30日目に達したとき」に加えて「完全な労務提供が困難」という規定が必要です。「3ヶ月間で通算して30日目に達したとき」だけだと不完全な労務提供(仕事に支障が出る状態で)しかできないにもかかわらず出勤しその後に精神疾患が悪化し、使用者賠償(従業員が会社に訴訟)に発展する可能性があります。前述の3ヶ月間という期間は、企業の規模や体力を考慮して3ヶ月~6ヶ月で定めると良いでしょう。
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